愛知県岡崎市に吉村医院という産科のお医者さんがある。
帝王切開はしない。抗生物質、陣痛促進剤は使わない。粉ミルクは与えない。もし母乳がすぐ十分に出なくても赤ちゃんに何にも与えない。吉村医院には、粉ミルクがない。入院中の環境がよいので妊婦さんは全員母乳が十分にでるらしい。 畳の部屋で子供が産める。出産直後、すぐ赤ちゃんをゆっくり抱いていられる。逆子も普通に産める。
できるだけ自然な形で出産したいと望む妊婦さんたちが、県内ばかりか全国からその評判を聞きつけて来院する。
「うちのお産は環境がいいから赤ちゃんはみんなツルンツルンや。」 全国からくる助産師や産婦人科医が、神秘に満ちたその神聖なお産の風景に、感動と驚きを抱くという。お母さんの喜びの顔が違う。赤ちゃんの生きる力がちがう。「赤ちゃんは医者が産ませるんとちがうんや。宇宙の力で自然に出てくる。自然なお産やないと、母と子の本当の絆ができないんや。切ったり、貼ったり、引っ張ったりする現代のお産は心をおかしくする。本当は医者がすることなんて何もないんや。」
助産院では逆子が産めない。いろいろと探したあげく、妙な縁で結局、吉村医院で産むことに落ち着いた。
僕たちは普通に産みたかっただけなのだ。日々の生活や自分自身の体の経験において、自然でないケミカルな、化学的なものが、どれほどに人の体や精神に悪影響を及ぼすかということをつくづく体と肌で感じてきた。まして産まれて間もないかよわい赤ちゃんに分かっていながらそんなこと、とてもできないと思っていた。
現代は当たり前のことがかなわない。まして、大切な大切な赤ちゃんの誕生の瞬間、最高のというか、当たり前の環境でその時をむかえたい。
自然のお産は大変だ。陣痛誘発剤を使わないので昼夜かまわず赤ちゃんが出てくる。みんな健康に産まれるので、余計な薬や器械がいらない。それで、保険を請求することがないから病院には一般的には都合が悪い。
吉村先生は自然なお産に命を掛けている。自らの体力と睡眠をギリギリまで削りながら、もう何十年もお母さんの本当に輝く笑顔と本当に健やかな赤ちゃんのために全身全霊を捧げている。こんなお医者さん、そうはどこにもいない。
もちろん産む側のお母さんにもそれなりの心構えがいる。「普段の生活態度に目をつぶって、お産だけ自然に・・・」なんて都合のいいことはない。和食の粗食で健康と体力を整え、毎日の生活でよく体を動かし、(吉村先生は、一日三時間歩け!という。) 、のんびり健やかにその時を待つ。吉村先生いわく「ゴロゴロ、パクパク、ビクビクはあかんよ。」